この記事では、統合失調症の陽性症状とは具体的にどのようなものか、なぜ起こるのか、そしてどのように対処すればよいのかを解説します。
1.陽性症状は統合失調症のサイン
幻覚や妄想といった陽性症状は、統合失調症の重要なサインの一つです。これらの症状は、脳の機能に何らかの不調が生じていることを示しています。「陽性」という言葉は、症状が良い・悪いという意味ではありません。健康なときにはなかったものが、新たに出現するという意味で使われる医学用語です。
具体的には、現実には存在しないものを感じ取る「幻覚」や、明らかに非現実的な内容を固く信じ込んでしまう「妄想」が代表的です。これらの体験はご本人にとって非常にリアルであり、「気のせい」や「考えすぎ」で片付けられるものではありません。脳が見せる、あまりにも鮮明な偽りの現実なのです。
この症状のつらい点は、周囲に理解されにくいことにあります。ご本人にとっては紛れもない事実であるため、「そんなことはない」と否定されると、孤立感を深め、ますます自分の殻に閉じこもってしまいます。そして、症状が現実の人間関係や社会生活に深刻な影響を及ぼし始めるのです。統合失調症は早期発見・早期治療が非常に重要です。
2.陽性症状の現れる原因
原因は完全には解明されていませんが、脳内の神経伝達物質のバランスの乱れが大きく関わっていると考えられています。特に「ドーパミン」という物質の過剰な活動が、陽性症状を引き起こす有力な仮説として知られています。
私たちの脳は、さまざまな情報を整理し、統合することで、現実を正しく認識しています。ドーパミンは、この情報処理の過程で重要な役割を担う物質です。しかし、何らかの原因でドーパミンの働きが過剰になると、脳が情報に優先順位をつけたり、重要性を判断したりする機能に混乱が生じます。
その結果、本来は重要でないはずの些細な物音や他人の視線に過敏に反応してしまうのです。そして、それらを自分に関係のある危険なサインとして誤って解釈してしまうのです。これが、妄想や幻覚の正体であると考えられています。脳のフィルター機能がうまく働かなくなった状態とイメージすると分かりやすいかもしれません。
また、発症には遺伝的な要因に加え、心理的なストレスや人間関係、生活環境なども複雑に影響し合います。思春期から青年期にかけて、脳が成熟する過程でかかる大きなストレスが発症の引き金になることも少なくありません。原因は一つではなく、複数の要因が絡み合って発症に至るのです。
3.代表的な陽性症状について
陽性症状には、いくつかの典型的なパターンがあります。ご自身や周りの方に当てはまるものがないか、確認してみてください。これらの症状は、一つだけ現れることもあれば、複数が同時に現れることもあります。
- 幻覚
幻覚は、五感に関わるさまざまな形で現れます。下記参照ください。
・幻聴:最も頻度の高い幻覚です。自分の悪口や噂話、行動を批判する声が聞こえます。時には、何かを命令する声(命令幻聴)や、複数の声が対話する形で聞こえることもあり、ご本人をひどく苦しめます。
・幻視: 実在しない人や物、光などが見える症状です。誰もいないはずの部屋に人が立っているように見えたり、奇妙な生き物がいるように感じたりします。
・その他の幻覚:食べ物がおかしな味がすると感じる「幻味」、異様な臭いを感じる「幻臭」、虫が体を這っているように感じる「体感幻覚」などもあります。
- 妄想
妄想は、内容が非現実的で、周りがどんなに説得しても訂正できない強固な思い込みです。下記参照ください。
・被害妄想・関係妄想:「自分は誰かに狙われている」「集団に監視されている」といった被害妄は代表的です。また、テレビやネットニュース、他人の会話などが自分に関係した特別な意味を持つと感じる関係妄想もあります。
・注察妄想: 常に誰かに見張られている、盗聴・盗撮されているという思い込みです。カーテンを閉め切ったり、外出できなくなったりすることがあります。
・誇大妄想: 「自分は神から選ばれた特別な人間だ」「世界を救う使命がある」など、自分の能力や地位を過大に評価する思い込みです。
- 思考の障害
考えをまとめ、順序立てて話すことが難しくなる症状です。下記参照ください。
・思考滅裂:話の筋道が立たず、会話があちこちに飛んで支離滅裂になります。聞いている側は何を言いたいのか理解することが困難です。
・思考途絶:会話の途中で突然考えが止まってしまい、黙り込んでしまう状態です。本人も「頭が真っ白になった」と感じます。
これらの症状は、ご本人にとって非常なストレスとなり、不安や恐怖から引きこもりがちになるなど、日常生活に大きな支障をきたします。
4.早期相談が回復への道
現在の統合失調症の治療は、薬物療法が中心となります。ドーパミンの過剰な働きを抑えるお薬を使うことで、幻覚や妄想といった陽性症状を効果的に軽減できます。近年では副作用の少ない新しい薬も開発されており、ご本人に合った処方で治療を進めていきます。
陽性症状は、脳が送るSOSのサインです。そのサインを見逃さず、勇気を出して専門家の扉を叩いてください。そこから、回復への道は必ず開けていきます。ご家族や周りの方も、ご本人を温かく見守り、受診を後押ししてあげることが何よりも大切な支援となります。
※公開/更新日: 2025年12月8日 10:00

