心療内科・精神科とよだクリニック

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2025年6月の一覧

  • 認知症 原因で一番多いアルツハイマー病とは 精神科コラム
    • 「最近、物忘れが多くて…」そんな不安を感じていませんか。認知症は、誰にとっても身近な問題となりつつあります。様々な原因がある中で、最も多いのがアルツハイマー病。今回は、このアルツハイマー病について、その原因から症状、そして向き合い方まで、医師の視点から分かりやすく解説します。正しい知識を持つことで不安を和らげ、精神科受診を含めた適切な対応への第一歩となるでしょう。

      1.そもそもアルツハイマー病とは何か

      認知症を引き起こす病気はいくつか存在します。その中で、アルツハイマー病は全体の半数以上を占める、最も代表的なもの。脳の神経細胞が徐々に壊れていくことで、脳の機能が低下していく進行性の病気です。特に記憶を司る海馬という部分から萎縮が始まることが多いのが特徴です。

       

      なぜ神経細胞が壊れるのでしょうか。現在の研究では、脳内に「アミロイドβ」という異常なたんぱく質が蓄積することが、発症の引き金になると考えられています。このアミロイドβが溜まると、神経細胞の働きが悪くなり、やがて細胞自体が死んでしまうのです。

       

      さらに、「タウタンパク質」という別のたんぱく質も異常に蓄積。これも神経細胞の死滅に関与し、脳の萎縮を加速させます。これらの変化は、症状が現れる10年以上前から、静かに脳の中で始まっていることも。ゆっくりと、しかし確実に進行していくのが、アルツハイマー病の怖い側面と言えるでしょう。決して他人事ではない、その現実をまず知ってください。

       

      2.脳の変化と現れる症状の段階

      アルツハイマー病の進行は、脳の変化と密接に関連しています。初期段階では、主に記憶に関わる海馬の機能低下が顕著になります。新しい出来事を覚えられない、いわゆる「物忘れ」が目立ち始めます。単なる加齢による物忘れとの違いは、体験したこと自体を忘れてしまう点。例えば、「朝食に何を食べたか」ではなく、「朝食を食べたこと自体」を忘れるのが特徴的です。

       

      中期に進むと、脳の萎縮は側頭葉や頭頂葉へと広がります。これにより、時間や場所が分からなくなる「見当識障害」が出現します。慣れた道で迷ったり、今日の日付が分からなくなったりするのです。また、言葉がスムーズに出てこない、物の名前が思い出せないといった言語の障害や、計画を立てて実行することが難しくなる「実行機能障害」も見られます。

       

      さらに症状が進行すると、前頭葉など脳全体の機能が低下。人格の変化や、徘徊、物盗られ妄想といった行動・心理症状が現れることも。最終的には、日常生活全般に介助が必要な状態に至ります。症状の現れ方や進行速度には個人差が大きいものの、こうした段階的な変化を知っておくことは、早期発見と適切なサポートに繋がる重要な知識です。

       

      3.アルツハイマー病の診断と治療

      アルツハイマー病が疑われる場合、どのような検査が行われるのでしょうか。まずは、ご本人やご家族から詳しくお話を伺う問診が重要。いつから、どのような症状があるのか、日常生活での変化などを確認します。次に、記憶力や見当識などを評価する神経心理学的検査を実施。これにより、認知機能の低下の程度を客観的に評価します。

       

      さらに、脳の萎縮の程度を確認するためのMRIやCTといった画像検査も行われます。最近では、脳内のアミロイドβの蓄積を画像で確認できるアミロイドPET検査や、脳脊髄液中のアミロイドβやタウタンパク質を測定する検査なども、診断の精度を高めるために用いられるようになりました。

      これらの検査結果を総合的に判断し、アルツハイマー病の診断に至ります。

       

      現在のところ、アルツハイマー病を根本的に治す治療法は確立されていません。しかし、進行を緩やかにする薬(抗認知症薬)は存在します。これらの薬は、神経伝達物質の働きを調整することで、中核症状の進行を抑制する効果が期待されるのです。また、薬物療法だけでなく、リハビリテーションや生活環境の調整といった非薬物療法も重要です。

      これらを組み合わせることで、ご本人のQOL(生活の質)を維持し、穏やかに過ごせる時間を長くすることを目指します。早期発見・早期治療が、より良い経過のためには不可欠です。

       

      4.予防と共生のためにできること

      アルツハイマー病は、現時点では完治が難しい病気です。しかし、発症リスクを低減するための予防策や、発症した場合でもより良く生きていくための方法はあります。予防には、生活習慣の改善が有効と考えられています。具体的には、バランスの取れた食事(特に魚や野菜、果物)、適度な運動習慣、質の高い睡眠が挙げられます。

       

      加えて、知的活動や社会的な交流も脳の健康維持に繋がる大切な要素です。趣味を楽しんだり、人と会話したりすることは、脳に適度な刺激を与え、活性化させる効果が期待できるのです。高血圧や糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病の管理も、アルツハイマー病のリスク低減に関係します。

       

      もし、ご自身やご家族がアルツハイマー病と診断されたとしても、決して一人で抱え込まないでください。医療機関はもちろん、地域包括支援センターや家族会など、相談できる場所はたくさんあります。病気を正しく理解し、利用できるサポートを上手に活用すること。それが、ご本人にとっても、支えるご家族にとっても、穏やかな日々を送るための鍵となるはずです。未来への希望を失わず、共に歩む道を探していきましょう。

       

       

  • それ、ペットロスかも?体調不良として現れる代表的な症状とは 精神科コラム
    • かけがえのない家族の一員であるペットとの別れは、言葉では言い表せないほどの深い悲しみをもたらします。近年、「ペットロス」という言葉が広く知られるようになりましたが、その影響は心の痛みだけに留まらず、思いがけない「体調不良」として現れることがあるのをご存知でしょうか。

       

      この記事では、精神科医・心療内科医の視点から、ペットロスが心だけでなく体にどのような影響を与えるのか、そして見逃しやすい体調不良のサインについて、詳しく解説していきます。ご自身の、あるいは身近な方の心と体の声に耳を傾けるきっかけとなれば幸いです。

       

      1.ペットロスとは?心だけでなく体にも影響が出る理由

      ペットロスとは、愛するペットを失うことによって生じる心身の様々な反応を指します。単なる「ペットがいなくなった寂しさ」ではなく、深い喪失体験として捉えることが重要です。

       

      ⑴         大切な存在を失う喪失感が心身に与えるストレス

      ペットは、多くの人にとって単なる動物ではなく、家族であり、友人であり、心の支えとなる存在です。そのかけがえのない存在を失うことは、人生における大きな喪失体験であり、強い精神的ストレスを引き起こします。このストレスは、心理的なダメージだけでなく、自律神経系や内分泌系(ホルモン分泌)にも影響を及ぼし、身体的な不調の原因となります。

       

      ⑵         ストレスホルモンが増えると体調にも変化が現れる

      強いストレスを感じると、私たちの体は「コルチゾール」などのストレスホルモンを分泌します。これらのホルモンは、一時的には危機的状況に対応するために役立ちますが、長期間にわたって過剰に分泌され続けると、免疫力の低下、血圧の上昇、血糖値の変動などを引き起こし、様々な体調不良を招く可能性があります。倦怠感、頭痛、胃腸の不調などは、このホルモンバランスの乱れが関係していることが多いのです。

       

      ⑶         「悲しみを我慢する」ことで体に出る無自覚な反応

      「ペットロスで悲しむなんて」「いつまでもメソメソしてはいけない」といった社会的なプレッシャーや、自分自身で感情を抑え込もうとすることで、悲しみが十分に表現されない場合があります。しかし、感情を無理に抑圧すると、そのエネルギーは行き場を失い、身体的な症状として現れることがあります。これを「身体化」と呼びます。頭痛、肩こり、腹痛、動悸など、原因不明とされる体調不良の背景に、抑圧された悲しみが隠れているケースは少なくありません。

       

      2.見逃しやすいペットロスの体調不良とは?

      よくある身体の変化に注意

      ペットロスによる体調不良は、一般的な病気の症状と似ているため、見逃されやすい傾向があります。以下のような症状が続く場合は、ペットロスとの関連を考えてみましょう。

       

      ⑴         風邪でもないのに続く倦怠感や微熱

      十分な休息をとっても、体が重く、だるさが抜けない。あるいは、37度前後の微熱が続く。これらは、ストレスによる免疫力の低下や、自律神経の乱れが原因である可能性があります。風邪薬を飲んでも改善しない場合は、背景に心理的な要因がないか考えてみる必要があります。

       

      ⑵         消化不良や腹痛など胃腸の不調が続く場合

      食欲不振、胃もたれ、吐き気、便秘、下痢といった胃腸症状も、ペットロスでよく見られる身体反応です。ストレスは胃腸の働きをコントロールする自律神経に直接影響を与えるため、消化機能が低下したり、過敏になったりすることがあります。

       

      ⑶         自律神経の乱れによる動悸やめまいもサインに

      突然、心臓がドキドキする(動悸)、立ちくらみやフワフワするようなめまいを感じる、といった症状も、自律神経のバランスが崩れているサインの可能性があります。ストレスや抑圧された感情は、交感神経と副交感神経の切り替えをスムーズに行えなくさせ、こうした循環器系の症状を引き起こすことがあります。

       

      3.ペットロスで現れやすい症状一覧|

      だるさ・頭痛・不眠などのサインとは

      上記以外にも、ペットロスでは以下のような様々な身体症状が現れる可能性があります。

       

      ⑴         朝起きられない・日中もだるい…慢性的な疲労感

      睡眠時間を確保しているはずなのに、朝すっきりと起き上がれない。日中も強い眠気やだるさを感じ、活動する意欲が湧かない。これは、精神的なエネルギーの消耗が激しいことや、睡眠の質の低下が関係していると考えられます。

       

      ⑵         集中力低下や頭痛に悩まされるケースも多い

      仕事や家事に集中できない、考えがまとまらない、物忘れが増えるといった認知機能の低下を感じることがあります。また、ズキズキする片頭痛や、頭全体が締め付けられるような緊張型頭痛も、ストレスや悲しみによって引き起こされる代表的な症状です。

       

      ⑶         夜になると眠れない・途中で目が覚める不眠症状

      布団に入ってもなかなか寝付けない(入眠困難)、夜中に何度も目が覚めてしまう(中途覚醒)、朝早く目が覚めてしまい、その後眠れない(早朝覚醒)といった不眠症状も、ペットロスによる精神的な負担が原因で起こりやすいです。

       

       

       

      4.ペットロスの症状まとめ

      ペットロスは、心の痛みだけでなく、倦怠感、微熱、胃腸の不調、動悸、めまい、頭痛、不眠など、様々な身体症状を引き起こす可能性があります。これらの症状は、大切な存在を失ったことによる深い悲しみやストレス、そして感情の抑圧が、自律神経系やホルモンバランスに影響を与えることで現れると考えられます。

       

      もし、ペットとの別れの後に原因不明の体調不良が続いている場合は、「気のせい」「ただの疲れ」と片付けずに、ペットロスによる心身の反応である可能性を考えてみてください。

       

      悲しむことは決して悪いことではありません。ご自身の心と体の声に正直に向き合い、必要であれば、我々のような専門家(精神科医・心療内科医)やカウンセラーに相談することも考えてみてください。一人で抱え込まず、適切なサポートを得ながら、ゆっくりと時間をかけて回復していくことが大切です。

  • 統合失調症と精神分裂病とは同じもの?:病名と病気を知る 精神科コラム
    • 「精神分裂病」という言葉を聞いたことがありますか。現在は「統合失調症」と呼ばれていますが、かつての病名が与える印象は、今もなお誤解や偏見を生む一因かもしれません。この病気は決して珍しいものではなく、正しい理解と適切なサポートがあれば、日常生活を問題なく過ごし、働くことも十分に可能なのです。今回は、統合失調症という病気について、病名変更の背景から症状、治療法まで、医師として分かりやすく解説します。

      1. 病名変更 「精神分裂病」から「統合失調症」へ

      かつて「精神分裂病」と呼ばれていたこの病気。その名称が「人格が分裂する」といった誤ったイメージを与え、患者様やご家族を苦しめる要因となっていました。実際には、人格が複数になる解離性同一性障害とは全く異なる病気です。こうした誤解や偏見を解消し、より適切な医療と社会参加を促すため、2002年に日本精神神経学会によって「統合失調症」へと名称が変更されました。

      「統合失調症」という名称には、「考えや気持ちをまとめ、調和させる(統合する)機能が、一時的にうまくいかなくなる(失調する)」という意味が込められています。脳の様々な働き(思考、感情、知覚など)のネットワークが、うまく連携できなくなる状態。この表現の方が、病気の実態をより正確に表していると言えるでしょう。

      病名が変わったからといって、病気そのものが変わるわけではありません。しかし、言葉が持つ力は大きいもの。新しい名称と共に、病気への正しい理解を広げていくことが、患者様が安心して治療を受け、社会で暮らしていくために非常に重要な一歩となるのです。偏見のない眼差しが求められます。

      2. 統合失調症とはどんな病気か

      統合失調症は、およそ100人に1人弱がかかると言われる、決して稀ではない精神疾患。思春期から青年期(10代後半〜30代)に発症することが多いのが特徴です。原因はまだ完全には解明されていませんが、特定の原因一つで発症するものではありません。

      現在の考え方では、脳の機能的な脆弱性(ストレスに対するもろさ)が元々あり、そこに様々な心理的・社会的なストレス(進学、就職、人間関係の変化など)が加わることで、発症に至るとされています。脳内の神経伝達物質(特にドーパミンなど)のバランスが崩れることが、症状の発現に深く関わっていると考えられているのです。

      遺伝的な要因も関与する可能性はありますが、遺伝だけで決まるわけではありません。あくまで「なりやすさ」に関わる要素の一つ。環境要因との相互作用が重要です。決して「心の弱さ」や「育て方」が直接の原因ではありません。脳という非常に繊細で複雑な器官の機能的な問題として捉えることが、正しい理解の基本です。誤解に基づいた非難は、ご本人をさらに苦しめる結果を招きます。

      3. 多様な症状と回復を目指す治療

      統合失調症の症状は非常に多彩です。大きく分けて「陽性症状」「陰性症状」「認知機能障害」の3つがあります。これらが様々な形で組み合わさって現れるのです。

      • 症状の種類
      • 陽性症状

      健康な時にはなかったものが現れる症状。代表的なものに「幻覚」と「妄想」があります。幻覚で最も多いのは、実在しない声が聞こえる「幻聴」。悪口や命令などが聞こえ、ご本人を苦しめます。妄想は、明らかに事実とは異なることを強く確信してしまう状態。「誰かに監視されている」「悪意を持って狙われている」といった被害妄想などが典型的です。

      • 陰性症状

      健康な時にあったものが失われる症状。意欲や気力の低下、感情の起伏が乏しくなる(感情鈍麻)、自室に引きこもりがちになる、といった形で現れます。周囲からは「怠けている」と誤解されやすいですが、病気の症状なのです。

      • 認知機能障害

      注意を持続させたり、情報を記憶したり、計画を立てて物事を実行したりする能力が低下します。日常生活や社会生活を送る上で、大きな支障となることもあります。

      ⑵治療について

      治療の柱は、「薬物療法」と「心理社会的療法」の二つです。

      • 薬物療法では、主に抗精神病薬を用い、特に陽性症状の改善や再発予防に効果を発揮します。
      • 心理社会的療法には、精神療法(心理教育や認知行動療法など)、リハビリテーション(SST:社会生活技能訓練など)、作業療法、デイケアなどが含まれます。

      これらを組み合わせ、症状の改善だけでなく、生活能力や社会機能の回復を目指すことが重要と考えます。早期発見・早期治療が、より良い回復への鍵となります。

      4. 理解と支援で共に歩む社会へ

      統合失調症は、かつて「不治の病」というイメージを持たれがちでした。しかし、治療法の進歩により、現在では適切な治療とサポートがあれば、多くの人が症状をコントロールし、回復(リカバリー)していくことが可能な病気になっています。「リカバリー」とは、単に症状がなくなることだけを指すのではありません。病気や障害と共にありながらも、自分らしい目標や生きがいを見つけ、充実した生活を送ることと考えます。

      その回復の道のりには、医療者だけでなく、ご家族、友人、職場、地域社会など、周囲の人々の理解と温かいサポートが不可欠です。病気に対する偏見やスティグマ(烙印)は、患者様の治療意欲を削ぎ、社会参加を妨げる大きな壁となります。まずは、統合失調症が決して特別な病気ではなく、脳の機能障害であり、適切な対応で回復できることを知ってください。

      そして、もし身近な人がこの病気になったとしても、特別視せず、一人の人間として尊重し、寄り添う姿勢が大切です。安心して治療を受けられ、自分らしく暮らせる社会。それこそが、統合失調症と共に生きる人々、そして私たち皆にとって、より良い社会の姿と言えるでしょう。