「なぜか人付き合いがうまくいかない」「空気が読めないと注意されることが多い」「特定のことに強いこだわりがある」。もしあなたが、このような生きづらさを長年感じているのなら、その背景には自閉スペクトラム症(ASD)という発達障害の特性が関係しているのかもしれません。
実は精神科へ大人になってから「自分はASDではないか」と相談に来られる方が増えています。この記事では、専門家の視点から自閉スペクトラム症とは何か、そして精神科ではどのようなサインに注目するのかを詳しく解説します。この記事を読むことで、あなたの悩みの正体を知るヒントが見つかるはずです。一人で抱え込まず、まずは自分を理解する一歩を踏み出してみませんか。
1.自閉スペクトラム症(ASD)とは?
まず、「自閉症」や「自閉スペクトラム症(ASD)」という言葉についてご説明します。これは、生まれつきの脳機能の発達の仕方が多数派とは異なることによる発達障害の一つです。決して、親の育て方や本人の努力不足が原因ではありません。自分を責める必要は全くないのです。
「スペクトラム」とは、「連続体」を意味する言葉になります。虹の色が赤から紫までくっきりと分かれているのではなく、様々な色が連続してグラデーションになっている状態を想像してみてください。ASDもそれと同じで、特性の現れ方やその強さは人それぞれで、非常に多様なのが特徴です。だからこそ、一人ひとりの個性を大切に理解していくことが求められます。
この特性は、大きく分けて2つの領域に現れると考えられています。一つは「対人関係やコミュニケーションにおける質的な困難」、もう一つは「限定された興味やこだわり行動」です。これらの特性があるために、学校や職場などの社会生活において、様々な困難を感じることがあります。しかし、それは能力が劣っているわけではなく、物事の感じ方や考え方が違うだけなのです。
2.精神科で注目するASDのサイン
精神科の診察では、あなたの日常生活での困りごとを丁寧にお聞きしながら、ASDの特性に当てはまるサインがないかを見ていきます。ここでは、私たちが特に注目する具体的なサインをいくつかご紹介しましょう。
- 対人関係・コミュニケーションの困難
*相手の気持ちを読み取るのが苦手
葉の裏にある意図や、表情、声のトーンから感情を察することが難しい場合があります。「少し考えておきます」と言われた言葉を文字通り受け取り、相手が断っていることに気づかない、といった経験はありませんか。
* 会話のキャッチボールが難しい
自分が関心のあることについて一方的に話し続けてしまったり、逆に関心が無いと会話が続かなかったりします。雑談のような、目的のはっきりしない会話も苦手な傾向があるでしょう。
* 曖昧な表現や比喩の理解が困難
「空気を読む」「顔に泥を塗る」といった慣用句や比喩表現を、文字通りに解釈してしまうことがあります。具体的でストレートなコミュニケーションを好むのです。
- 限定された興味・こだわり行動
* 特定の物事への強い興味
車や歴史、特定のキャラクターなど、自分の興味のある分野に対しては、驚くほどの集中力と記憶力を発揮します。その知識の深さは、専門家顔負けになることも珍しくありません。
* 決まった手順やルールへのこだわり
毎日の通勤経路や食事のメニュー、仕事の進め方など、自分なりの手順やルールが決まっていることが多いです。急な変更や予定外の出来事が起こると、強い不安やストレスを感じてしまいます。
* 感覚の過敏さ、または鈍感さ
特定の音(救急車のサイレン、赤ちゃんの泣き声など)が耐えられないほど苦痛に感じたり、服のタグや縫い目が肌に触れるのが不快だったりします。一方で、痛みや暑さ・寒さに気づきにくい「鈍感さ」を持つ人もいるのです。
これらのサインは、あくまで一例です。当てはまるからといって、必ずしもASDというわけではありません。しかし、もし多くの項目に心当たりがあり、それが原因で生きづらさを感じているなら、専門家に相談する価値は十分にあるでしょう。
3.精神科での診断とその後の歩み
「精神科に行くのは少し怖い」と感じる方もいるかもしれません。しかし、診断を受けることは、これからの人生をより良く生きるための重要なステップとなり得ます。ここでは、診断のプロセスと、その後の歩みについてお話しします。
まず、精神科や心療内科を受診すると、詳しい問診が行われます。現在の困りごとはもちろん、子どもの頃の様子や家族関係など、あなたの人生を丁寧に振り返る作業です。これは、あなたの特性を正しく理解するために非常に重要となります。その後、必要に応じて、知能検査(WAIS-IVなど)や発達特性を評価する心理検査を実施することがあります。これらの客観的なデータと問診の内容を総合的に判断し、診断が下される流れです。
診断がつくことの最大のメリットは、「自己理解」が進むことでしょう。長年抱えてきた「なぜ自分はうまくいかないのか」という疑問の答えが見つかり、自分を責める気持ちが和らぐ方は少なくありません。また、自分の得意なこと・苦手なことを把握することで、職場での環境調整を申し出たり、自分に合った生活スタイルを築いたりするヒントが得られます。
診断後は、「治療」というより「サポート」が中心になります。カウンセリングを通じて自分の特性との付き合い方を学んだり、ソーシャルスキルトレーニング(SST)で対人関係のスキルを身につけたりします。また、ASDに合併しやすい不安やうつに対しては、お薬による治療を行う場合もあります。大切なのは、特性を「治す」のではなく、特性を活かしながら困難を減らしていくことなのです。
4.一人で抱えず、まずは相談を
自閉スペクトラム症(ASD)は、決して特別なものではありません。それは、脳の機能的な多様性から生まれる、その人だけが持つ「個性」の一つです。強いこだわりは専門性につながり、正直でまっすぐな性格は、時に大きな信頼を生むこともあります。大切なのは、その特性を正しく理解し、あなた自身が最も輝ける環境を見つけることです。
もしあなたが、これまでお話ししてきたようなサインに心当たりがあり、一人で悩み続けているのなら、どうか勇気を出して専門機関のドアを叩いてみてください。精神科や心療内科のほか、お住まいの地域にある「発達障害者支援センター」なども、頼りになる相談先の一つです。
あなたは一人ではありません。私達専門家は、いつでもあなたの声に耳を傾ける準備ができています。
※公開/更新日: 2025年8月8日 13:30

