この記事では、精神科医の立場から、アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症の違いについて解説します。それぞれの特徴的な症状や見分け方を知ることで、早期発見と適切な対応につなげていただければと思います。
1.主な症状の違い
アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症の最も大きな違いは、初期に現れる症状にあります。アルツハイマー型は記憶障害が中心ですが、レビー小体型は幻視や体の動きの問題が目立ちます。
アルツハイマー型認知症では、最近体験した出来事を忘れてしまう記憶障害が特徴的です。「さっき食事をしたのに、食べていないと言う」「同じことを何度も聞いてくる」といった短期記憶の低下が早期から顕著に現れます。時間や場所が分からなくなる見当識障害も伴い、徐々に判断力や理解力も低下していきます。
一方、レビー小体型認知症の初期症状は、記憶障害よりも幻視が目立ちます。「知らない子供が部屋で遊んでいる」「虫が壁を這っている」など、鮮明でありありとした幻視が約80%の患者様に現れます。また、手足の震えや動作が緩慢になるパーキンソン症状も早期から出現することが多いのです。
さらに特徴的なのが、認知機能の日内変動です。レビー小体型では、調子の良い日と悪い日の差が著しく、同じ日の中でも時間帯によって意識レベルが変わります。この変動の大きさが、アルツハイマー型との重要な鑑別点となります。
2.脳の変化と発症メカニズムが異なる理由
症状の違いが生じるのは、脳内で起こっている変化が根本的に異なるためです。病気のメカニズムを理解することで、症状の現れ方にも納得がいきます。
アルツハイマー型認知症では、アミロイドβやタウと呼ばれる異常なタンパク質が脳に蓄積します。これらが神経細胞を変性・破壊していくことで、特に記憶を司る海馬という部分が萎縮していきます。CTやMRIで脳を見ると、海馬の萎縮が明確に確認できるのが特徴です。
対してレビー小体型認知症では、α-シヌクレインというタンパク質の塊である「レビー小体」が、大脳皮質や脳幹に広く蓄積します。この蓄積が神経細胞の機能障害を引き起こすことで、視覚や運動機能、自律神経に関わる部分が障害されるのです。画像検査では海馬の萎縮は目立ちません。
病理学的な違いとして、アルツハイマー型では大脳皮質に神経突起斑や神経原線維変化が見られます。一方、レビー小体型では皮質ニューロン内にレビー小体が特徴的に出現します。この病理学的な違いが、臨床症状の違いを生み出しているのです。
また、興味深いことに、パーキンソン病もレビー小体が原因で発症します。ただし、レビー小体型認知症が大脳にレビー小体が多発するのに対し、パーキンソン病は中脳にできることで発症します。進行すると両者が併発する可能性もあります。
3.性別・年齢・進行の特徴
アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症では、発症しやすい性別や年齢、病気の進行パターンにも明確な違いがあります。これらを知ることで、早期発見のヒントになります。
性別の傾向として、アルツハイマー型認知症は女性に多く、男性の約2倍の発症率です。一方、レビー小体型認知症は男性に多く、女性の約2倍となっています。この性差の理由は完全には解明されていませんが、ホルモンや生活習慣の違いが関係している可能性が指摘されています。
発症年齢は、どちらも主に65歳以上の高齢者に多く見られます。しかし、レビー小体型認知症は40〜50歳代で発症するケースも報告されており、比較的若年での発症もありうることを知っておく必要があります。
遺伝性については、アルツハイマー型認知症の5〜15%が家族性であるのに対し、レビー小体型認知症で家族性はまれです。ただし、家族歴がない場合でも発症することは十分にありえます。
進行パターンにも違いがあります。アルツハイマー型は記憶障害から始まり、徐々に他の認知機能も低下していく比較的予測可能な経過をたどります。レビー小体型は認知機能の変動が大きく、良い時と悪い時の差が激しいため、進行を予測しにくい特徴があります。
診断には、問診や認知機能検査(長谷川式やMMSE)に加え、画像検査が有効です。
治療については、どちらの認知症でもドネペジルという薬が使用できます。この薬は記憶や認知機能の改善に効果があり、レビー小体型では幻視の軽減にも有効です。最近では、アルツハイマー型に対してレカネマブという新しい薬も承認されています。
ただし、レビー小体型認知症では抗精神病薬の使用に注意が必要です。幻視に対して一般的な抗精神病薬を使うと、パーキンソン症状が急激に悪化し、生命を脅かす可能性があります。この点が、正確な鑑別診断が必要な理由の一つです。
ケアの面でも違いがあります。アルツハイマー型では記憶を補う工夫やルーティンの確立が有効ですが、レビー小体型では幻視への適切な対応や転倒予防、自律神経症状への配慮が重要になります。認知機能の変動が大きいため、調子の良い時間帯を活かした生活リハビリも効果的です。
※公開/更新日: 2025年12月16日 10:00

