この記事では、職場のストレスが原因で起こる食欲不振について解説します。仕事の疲れやプレッシャーで食事が喉を通らない状態を放置すると、心身の不調を悪化させる危険があります。早期の気づきと適切な対処法を紹介します。
1. 食欲不振は重度のストレス反応
職場ストレスによる食欲不振は、単なる気分の問題ではなく、深刻なストレス反応の表れです。精神科医として診断する際、これは見逃せない重要なサインとなります。
ストレスを受けると、体内ではコルチゾールというホルモンが過剰に分泌されます。このホルモンは本来、危機的状況で生命を守るために働きますが、慢性的に分泌され続けると食欲を調整する脳の視床下部に悪影響を及ぼします。その結果、空腹を感じにくくなり、食べ物を見ても食べたいという欲求が湧かなくなります。
実際の臨床現場では、プレゼン前や重要な会議が続くと食事を摂れなくなる方が多くいらっしゃいます。また、上司との関係悪化や長時間労働が続くと、朝食を抜く、昼食が喉を通らないといった症状を訴える患者様が増えます。このような状態が2週間以上続く場合、うつ病の初期症状である可能性が高まります。
食欲不振は、あなたの心が「これ以上のストレスに耐えられない」と訴えている重要なメッセージなのです。この段階で適切に対処できれば、より深刻な精神疾患への進行を防げます。
2. 栄養不足が招く悪循環
食欲不振を放置すると、栄養不足による身体的・精神的な悪循環に陥ってしまいます。この連鎖が、回復を著しく困難にする要因となります。
食事量が減ると、脳の活動に必要なブドウ糖やビタミンB群が不足します。特にビタミンB群は神経伝達物質の生成に不可欠で、これが欠乏すると集中力の低下、イライラ、不安感が増大します。すると職場でのパフォーマンスがさらに低下し、ミスが増え、それがまた新たなストレス源となる悪循環が生まれます。
私が診察した30代の営業職の男性は、食欲不振が3か月続いた結果、体重が10キロ減少しました。栄養不足により思考力が低下し、簡単な業務でもミスを繰り返すようになりました。さらに免疫力が低下して風邪をひきやすくなり、欠勤が増えて職場での評価も下がりました。このように、食欲不振は単独の問題ではなく、様々な健康被害を連鎖的に引き起こします。
また、栄養不足は睡眠の質も低下させます。十分な睡眠が取れなくなると、ストレスホルモンがさらに増加し、食欲不振が悪化します。こうした負のスパイラルから抜け出すには、専門的な介入が必要になります。
3. うつ病への進行リスク
食欲不振が2週間以上継続する場合、うつ病への移行を強く疑う必要があります。早期発見と治療が、その後の経過を大きく左右します。
精神医学では、食欲不振や体重減少は「うつ病の中核症状」として位置づけられています。実際、うつ病患者の約70%が食欲の変化を経験しており、特に重症例では顕著な体重減少が見られます。職場ストレスを契機にうつ病を発症すると、意欲の低下、思考力の減退、自己否定感などの症状が加わり、日常生活全般に支障をきたします。
40代の女性管理職の例では、部下とのトラブルから食欲不振が始まり、1か月後には朝起きられない、涙が止まらないといった典型的なうつ症状が出現しました。早期に受診されたため、休職と薬物療法で3か月後には職場復帰できましたが、発見が遅れていれば長期化していた可能性があります。
うつ病は適切な治療を受ければ改善できますが、放置すると症状が固定化し、治療期間が長引きます。食欲不振という初期サインを見逃さず、早めに専門医を受診することが重要です。自己判断で「気の持ちよう」と片付けてはいけません。
※公開/更新日: 2026年2月5日 10:22

