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その物忘れ、どっち?アルツハイマーとレビーの違い
精神科コラム
《2025年12月16日10:00 公開》
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この記事では、精神科医の立場から、アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症の違いについて解説します。それぞれの特徴的な症状や見分け方を知ることで、早期発見と適切な対応につなげていただければと思います。
1.主な症状の違い
アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症の最も大きな違いは、初期に現れる症状にあります。アルツハイマー型は記憶障害が中心ですが、レビー小体型は幻視や体の動きの問題が目立ちます。
アルツハイマー型認知症では、最近体験した出来事を忘れてしまう記憶障害が特徴的です。「さっき食事をしたのに、食べていないと言う」「同じことを何度も聞いてくる」といった短期記憶の低下が早期から顕著に現れます。時間や場所が分からなくなる見当識障害も伴い、徐々に判断力や理解力も低下していきます。
一方、レビー小体型認知症の初期症状は、記憶障害よりも幻視が目立ちます。「知らない子供が部屋で遊んでいる」「虫が壁を這っている」など、鮮明でありありとした幻視が約80%の患者様に現れます。また、手足の震えや動作が緩慢になるパーキンソン症状も早期から出現することが多いのです。
さらに特徴的なのが、認知機能の日内変動です。レビー小体型では、調子の良い日と悪い日の差が著しく、同じ日の中でも時間帯によって意識レベルが変わります。この変動の大きさが、アルツハイマー型との重要な鑑別点となります。
2.脳の変化と発症メカニズムが異なる理由
症状の違いが生じるのは、脳内で起こっている変化が根本的に異なるためです。病気のメカニズムを理解することで、症状の現れ方にも納得がいきます。
アルツハイマー型認知症では、アミロイドβやタウと呼ばれる異常なタンパク質が脳に蓄積します。これらが神経細胞を変性・破壊していくことで、特に記憶を司る海馬という部分が萎縮していきます。CTやMRIで脳を見ると、海馬の萎縮が明確に確認できるのが特徴です。
対してレビー小体型認知症では、α-シヌクレインというタンパク質の塊である「レビー小体」が、大脳皮質や脳幹に広く蓄積します。この蓄積が神経細胞の機能障害を引き起こすことで、視覚や運動機能、自律神経に関わる部分が障害されるのです。画像検査では海馬の萎縮は目立ちません。
病理学的な違いとして、アルツハイマー型では大脳皮質に神経突起斑や神経原線維変化が見られます。一方、レビー小体型では皮質ニューロン内にレビー小体が特徴的に出現します。この病理学的な違いが、臨床症状の違いを生み出しているのです。
また、興味深いことに、パーキンソン病もレビー小体が原因で発症します。ただし、レビー小体型認知症が大脳にレビー小体が多発するのに対し、パーキンソン病は中脳にできることで発症します。進行すると両者が併発する可能性もあります。
3.性別・年齢・進行の特徴
アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症では、発症しやすい性別や年齢、病気の進行パターンにも明確な違いがあります。これらを知ることで、早期発見のヒントになります。
性別の傾向として、アルツハイマー型認知症は女性に多く、男性の約2倍の発症率です。一方、レビー小体型認知症は男性に多く、女性の約2倍となっています。この性差の理由は完全には解明されていませんが、ホルモンや生活習慣の違いが関係している可能性が指摘されています。
発症年齢は、どちらも主に65歳以上の高齢者に多く見られます。しかし、レビー小体型認知症は40〜50歳代で発症するケースも報告されており、比較的若年での発症もありうることを知っておく必要があります。
遺伝性については、アルツハイマー型認知症の5〜15%が家族性であるのに対し、レビー小体型認知症で家族性はまれです。ただし、家族歴がない場合でも発症することは十分にありえます。
進行パターンにも違いがあります。アルツハイマー型は記憶障害から始まり、徐々に他の認知機能も低下していく比較的予測可能な経過をたどります。レビー小体型は認知機能の変動が大きく、良い時と悪い時の差が激しいため、進行を予測しにくい特徴があります。
診断には、問診や認知機能検査(長谷川式やMMSE)に加え、画像検査が有効です。
治療については、どちらの認知症でもドネペジルという薬が使用できます。この薬は記憶や認知機能の改善に効果があり、レビー小体型では幻視の軽減にも有効です。最近では、アルツハイマー型に対してレカネマブという新しい薬も承認されています。
ただし、レビー小体型認知症では抗精神病薬の使用に注意が必要です。幻視に対して一般的な抗精神病薬を使うと、パーキンソン症状が急激に悪化し、生命を脅かす可能性があります。この点が、正確な鑑別診断が必要な理由の一つです。
ケアの面でも違いがあります。アルツハイマー型では記憶を補う工夫やルーティンの確立が有効ですが、レビー小体型では幻視への適切な対応や転倒予防、自律神経症状への配慮が重要になります。認知機能の変動が大きいため、調子の良い時間帯を活かした生活リハビリも効果的です。
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「甘えじゃない」うつ病で朝起き上がれないあなたへ
精神科コラム
《2025年12月12日10:00 公開》
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この記事では、なぜうつ病で朝起き上がれなくなるのか、その科学的なメカニズムと、実際にできる対処法について書いていきます。
1. 起き上がれないのは病気の症状
うつ病で朝起き上がれないのは、意志が弱いからでも、怠けているからでもありません。これは「精神運動制止」と呼ばれる、うつ病の典型的な症状のひとつです。
精神運動制止とは、脳の活動が低下することで、考える速度が遅くなり、体を動かすエネルギーが枯渇してしまう状態を指します。健康な人にとって何でもない「起き上がる」という動作が、うつ病の方にとっては山を登るほど困難な行為になってしまうのです。
この症状には、脳内の神経伝達物質の不足が深く関わっています。特にセロトニンやノルアドレナリンといった物質の減少により、意欲や活力を生み出す脳の機能が著しく低下します。つまり、気持ちの問題ではなく、脳の化学的なバランスが崩れている状態なのです。
2. うつ病で起き上がれなくなる理由
背景には、いくつかの医学的な理由があります。これらを理解することで、ご自身の状態を客観的に見つめられるようになります。
第一に、うつ病では睡眠の質が著しく低下します。夜中に何度も目が覚める「中途覚醒」や、早朝に目覚めてしまう「早朝覚醒」が起こりやすくなります。表面的には寝ているように見えても、脳と体は十分な休息を取れていません。その結果、朝になっても疲労が回復せず、起き上がるエネルギーが残っていない状態になるのです。
第二に、うつ病では脳の報酬系と呼ばれる部分の機能が低下します。健康な状態では、起きて活動することで得られる喜びや達成感を脳が予測し、それが行動のモチベーションになります。しかし、うつ病ではこの予測機能が働かなくなり、「起きても何も良いことがない」と脳が判断してしまうのです。
第三に、うつ病特有の「日内変動」という現象があります。これは、一日の中で症状の重さが変化する特徴で、多くの場合、朝が最も症状が重く、夕方から夜にかけて少し楽になります。朝起き上がれないのは、この日内変動の影響も大きく関係しています。
さらに、慢性的なストレスによって副腎から分泌されるコルチゾールというホルモンのリズムも乱れます。本来、朝に分泌量が増えて目覚めをサポートするはずのコルチゾールが、うつ病では正常に機能しなくなるため、朝の覚醒が極めて困難になるのです。
3. これらが起き上がれない時の対処法
無理のない範囲で、以下のようにできることから始めてみてください。
- 専門医の治療を受ける
最も重要なのは、精神科や心療内科を受診し、適切な治療を開始することです。抗うつ薬による薬物療法は、脳内の神経伝達物質のバランスを整え、起き上がれない症状を根本から改善します。お薬の効果が現れるまでには数週間かかりますが、焦らず継続することが大切です。
- 小さな目標から始める
いきなり「普通に起きる」ことを目指すのではなく、まずは布団の中で体を動かすことから始めましょう。手足を伸ばす、寝返りを打つ、カーテンを開けて光を浴びるなど、できる範囲の小さな動作を積み重ねていきます。完璧を求めず、できたことを認めてあげることが重要です。
- 睡眠リズムを整える
可能な範囲で、就寝時間と起床時間を一定にする努力をしてみてください。寝る前のスマートフォンやパソコンの使用を控え、部屋を暗くして静かな環境を作ります。どうしても眠れない時は無理せず、横になって体を休めるだけでも構いません。
- 周囲に理解を求める
職場や学校、家族に対して、自分の状態を正直に伝えることも大切です。「甘えている」と誤解されることへの恐れから黙っていると、かえって症状が悪化してしまいます。医師の診断書があれば、周囲も理解しやすくなり、必要なサポートを受けやすくなります。
職場や学校では、勤務時間や登校時間の調整、在宅勤務の許可など、柔軟な対応が求められます。
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休診のお知らせ
お知らせ
《2025年12月9日21:31 公開》
- 令和7年12月28日(日)~令和8年1月4日(日)の間、休診いたします。1月5日(月)からは通常通りの診察です。よろしくお願いいたします。
- ご予約は診療時間内にお電話をお願いいたします。
- 来院時はマスク着用でお願いいたします。
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陽性症状が現れたら?統合失調症の初期サインかも
精神科コラム
《2025年12月8日10:00 公開》
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この記事では、統合失調症の陽性症状とは具体的にどのようなものか、なぜ起こるのか、そしてどのように対処すればよいのかを解説します。
1.陽性症状は統合失調症のサイン
幻覚や妄想といった陽性症状は、統合失調症の重要なサインの一つです。これらの症状は、脳の機能に何らかの不調が生じていることを示しています。「陽性」という言葉は、症状が良い・悪いという意味ではありません。健康なときにはなかったものが、新たに出現するという意味で使われる医学用語です。
具体的には、現実には存在しないものを感じ取る「幻覚」や、明らかに非現実的な内容を固く信じ込んでしまう「妄想」が代表的です。これらの体験はご本人にとって非常にリアルであり、「気のせい」や「考えすぎ」で片付けられるものではありません。脳が見せる、あまりにも鮮明な偽りの現実なのです。
この症状のつらい点は、周囲に理解されにくいことにあります。ご本人にとっては紛れもない事実であるため、「そんなことはない」と否定されると、孤立感を深め、ますます自分の殻に閉じこもってしまいます。そして、症状が現実の人間関係や社会生活に深刻な影響を及ぼし始めるのです。統合失調症は早期発見・早期治療が非常に重要です。
2.陽性症状の現れる原因
原因は完全には解明されていませんが、脳内の神経伝達物質のバランスの乱れが大きく関わっていると考えられています。特に「ドーパミン」という物質の過剰な活動が、陽性症状を引き起こす有力な仮説として知られています。
私たちの脳は、さまざまな情報を整理し、統合することで、現実を正しく認識しています。ドーパミンは、この情報処理の過程で重要な役割を担う物質です。しかし、何らかの原因でドーパミンの働きが過剰になると、脳が情報に優先順位をつけたり、重要性を判断したりする機能に混乱が生じます。
その結果、本来は重要でないはずの些細な物音や他人の視線に過敏に反応してしまうのです。そして、それらを自分に関係のある危険なサインとして誤って解釈してしまうのです。これが、妄想や幻覚の正体であると考えられています。脳のフィルター機能がうまく働かなくなった状態とイメージすると分かりやすいかもしれません。
また、発症には遺伝的な要因に加え、心理的なストレスや人間関係、生活環境なども複雑に影響し合います。思春期から青年期にかけて、脳が成熟する過程でかかる大きなストレスが発症の引き金になることも少なくありません。原因は一つではなく、複数の要因が絡み合って発症に至るのです。
3.代表的な陽性症状について
陽性症状には、いくつかの典型的なパターンがあります。ご自身や周りの方に当てはまるものがないか、確認してみてください。これらの症状は、一つだけ現れることもあれば、複数が同時に現れることもあります。
- 幻覚
幻覚は、五感に関わるさまざまな形で現れます。下記参照ください。
・幻聴:最も頻度の高い幻覚です。自分の悪口や噂話、行動を批判する声が聞こえます。時には、何かを命令する声(命令幻聴)や、複数の声が対話する形で聞こえることもあり、ご本人をひどく苦しめます。
・幻視: 実在しない人や物、光などが見える症状です。誰もいないはずの部屋に人が立っているように見えたり、奇妙な生き物がいるように感じたりします。
・その他の幻覚:食べ物がおかしな味がすると感じる「幻味」、異様な臭いを感じる「幻臭」、虫が体を這っているように感じる「体感幻覚」などもあります。
- 妄想
妄想は、内容が非現実的で、周りがどんなに説得しても訂正できない強固な思い込みです。下記参照ください。
・被害妄想・関係妄想:「自分は誰かに狙われている」「集団に監視されている」といった被害妄は代表的です。また、テレビやネットニュース、他人の会話などが自分に関係した特別な意味を持つと感じる関係妄想もあります。
・注察妄想: 常に誰かに見張られている、盗聴・盗撮されているという思い込みです。カーテンを閉め切ったり、外出できなくなったりすることがあります。
・誇大妄想: 「自分は神から選ばれた特別な人間だ」「世界を救う使命がある」など、自分の能力や地位を過大に評価する思い込みです。
- 思考の障害
考えをまとめ、順序立てて話すことが難しくなる症状です。下記参照ください。
・思考滅裂:話の筋道が立たず、会話があちこちに飛んで支離滅裂になります。聞いている側は何を言いたいのか理解することが困難です。
・思考途絶:会話の途中で突然考えが止まってしまい、黙り込んでしまう状態です。本人も「頭が真っ白になった」と感じます。
これらの症状は、ご本人にとって非常なストレスとなり、不安や恐怖から引きこもりがちになるなど、日常生活に大きな支障をきたします。
4.早期相談が回復への道
現在の統合失調症の治療は、薬物療法が中心となります。ドーパミンの過剰な働きを抑えるお薬を使うことで、幻覚や妄想といった陽性症状を効果的に軽減できます。近年では副作用の少ない新しい薬も開発されており、ご本人に合った処方で治療を進めていきます。
陽性症状は、脳が送るSOSのサインです。そのサインを見逃さず、勇気を出して専門家の扉を叩いてください。そこから、回復への道は必ず開けていきます。ご家族や周りの方も、ご本人を温かく見守り、受診を後押ししてあげることが何よりも大切な支援となります。
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