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その物忘れ、認知症じゃないかも…見過ごされる老人てんかん
精神科コラム
《2025年11月21日8:24 公開》
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この記事では、「老人てんかん」について、その特徴と見極め方、そして希望の持てる治療法まで、解説していきます。
1.認知症と誤解されやすい「老人てんかん」とは
「てんかん」と聞くと、多くの人が「若い人の病気」「突然倒れて痙攣する」といったイメージを抱くかもしれません。しかし、てんかんは子どもだけでなく、高齢になってから初めて発症することも珍しくなく、これを「老人てんかん」と呼びます。
そして最も重要な点は、老人てんかんの症状は、私たちが想像するような派手な発作ではないことが多い、ということです。むしろ、一見すると「年のせい」や「認知症の初期症状」と見分けがつかないような、非常に地味で分かりにくい発作が特徴です。
具体的には、以下のような症状が数秒から数分間続きます。
* 突然、動作が止まり、一点をぼんやりと見つめる
* 話しかけても反応がない、またはトンチンカンな返事をする
* 口をもぐもぐさせたり、舌なめずりをしたりする
* 意味もなく服をいじったり、手をもぞもぞと動かしたりする
* 意識がはっきりしないまま、目的もなく歩き回る
発作が終わると、本人は何事もなかったかのように元の状態に戻ります。しかし、発作中の記憶は全くありません。そのため、家族が指摘しても否定することがほとんどです。
このような小さな発作(専門的には「焦点意識減損発作」と呼びます)が頻繁に繰り返されると、脳の機能が徐々に低下し、結果として記憶力や注意力が落ちていきます。これが、老人てんかんが認知症と誤解されてしまう最大の理由なのです。
2.なぜ見過ごされてしまうのか?その背景と原因
認知症と似ている老人てんかんが、なぜ見過ごされ、適切な治療に結びつかないのでしょうか。それにはいくつかの背景があります。
第一に、前述の通り症状が非常に分かりにくいことです。家族でさえ「またぼーっとしてる」「疲れているのかな」「年のせいだろう」と見過ごしてしまいがちです。本人に自覚がないため、病気だという認識に至らないのです。
第二に、本人や家族、さらには医療関係者の間でも「高齢者のてんかん」に対する認知度が低いことが挙げられます。高齢者の物忘れ=認知症という先入観が強いため、てんかんの可能性が最初から考慮されないケースが少なくありません。
そして第三に、老人てんかんは高齢者特有の脳の変化が原因で起こることが多いという点です。最も多い原因は、過去に起こした脳卒中(脳梗塞や脳出血)の後遺症です。自覚がないほどの小さな脳梗塞でも、脳にできた傷が原因で異常な電気信号を発し、てんかん発作を引き起こすことがあります。その他にも、頭部外傷の後遺症、脳腫瘍、そしてアルツハイマー病自体がてんかんを合併することもあります。
3.家族ができることと専門医への相談
もし、あなたの親御さんに認知症と似た症状が見られ、「老人てんかんかもしれない」と感じたら、諦めずに次のステップに進んでみてください。ご家族の観察こそが、正しい診断への最も重要な鍵となります。
* 症状を詳しく観察し、記録する
「いつ、どんな状況で」「どのくらいの時間」「どのような様子だったか」「発作後の様子はどうか」を具体的にメモしておきましょう。また、スマートフォンなどで発作の様子を動画で撮影しておくこともおすすめです。言葉で説明するよりも何倍も正確な情報となり、診断の大きな助けとなります。
* 専門的な検査を受ける
診断のためには、脳の異常な電気活動を調べる「脳波検査」が不可欠です。一度の検査で異常が見つからないこともあるため、複数回検査を行うこともあります。また、脳梗塞の跡や腫瘍など、原因を特定するためにMRIやCTなどの画像検査も行われます。
これらの検査と、ご家族からの詳細な情報とを組み合わせることで、初めて正確な診断が可能になるのです。
そしてここからが最もお伝えしたい内容です。老人てんかんは、進行を緩やかにすることしかできない多くの認知症とは異なり、薬による治療で発作をコントロールし、症状を劇的に改善できる可能性のある病気です。
治療の基本は、「抗てんかん薬」の服用です。現在の薬は副作用も少なく、高齢者でも安心して服用できるものが増えています。適切な薬を適切な量で服用すれば、多くの場合、発作は完全に抑えられます。
発作がなくなれば、それに伴って起きていた記憶力や注意力の低下も食い止められ、場合によっては改善することさえあります。「認知症だと思っていた人が、実は治療可能なてんかんで、服薬を始めたら驚くほどしっかりした」というケースは、決して珍しい話ではないのです。
「年齢のせい」と諦めてしまう前に、少しでも疑わしいと感じたら、ぜひ発作の様子を注意深く観察し、動画に記録して専門医に相談してみてください。
※とよだクリニックではてんかん学会専門医、認知症学会専門医が診察にあたり、脳波検査の実施・判読が可能です。
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秋の気分の落ち込みはうつ病の危険なサインかもしれません
精神科コラム
《2025年11月14日8:19 公開》
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この記事では、秋の心の不調の正体を解き明かし、見逃してはならない「危険なサイン」について解説します。
1.「季節の変わり目だから」で済ませてはいけない心のサイン
なぜ、秋になると私たちの心は不安定になりがちなのでしょうか。その最大の原因は「日照時間の減少」です。太陽の光を浴びる時間が短くなることで、私たちの脳内の化学物質のバランスが崩れ、心身に様々な影響を及ぼすのです。
具体的には、以下の2つの体内物質が大きく関係しています。
*セロトニンの減少
「幸せホルモン」とも呼ばれるセロトニンは、精神を安定させ、幸福感や満足感をもたらす神経伝達物質です。このセロトニンは、太陽光を浴びることで生成が促進されます。そのため、秋になり日照時間が急激に減るとセロトニンの分泌量も低下し、不安感や焦燥感、気分の落ち込みを引き起こしやすくなるのです。
*メラトニンのバランスの乱れ
「睡眠ホルモン」であるメラトニンは、セロトニンを材料にして作られます。夜、暗くなると分泌が増え、私たちを自然な眠りへと誘います。しかし、日中のセロトニンが不足すると、夜になっても十分なメラトニンが生成されず、体内時計が狂ってしまいます。その結果、「夜は寝つきが悪いのに、日中は強烈に眠い」「いくら寝ても疲れが取れない」といった睡眠の質の低下につながります。
つまり、秋の不調は気分の問題だけでなく、日照不足という物理的な原因によって引き起こされる、体の生理的な反応なのです。これを「季節のせい」と軽く考えて放置してしまうと、心のバランスはさらに崩れていってしまう可能性があります。
2.それは季節性うつ、それとも本格的なうつ病
秋の不調が「季節性うつ」によるものか、あるいはより注意が必要な「うつ病」なのかを見極めることが重要です。それぞれの特徴を理解し、自分の状態を客観的に見てみましょう。季節性うつには、一般的なうつ病とは少し異なる、以下のような特徴的な症状が見られます。
*過眠:とにかく眠く、普段より何時間も長く寝てしまう。
*過食:特にパンやパスタ、お菓子などの炭水化物や甘いものが無性に食べたくなる。
*体重増加:過食と活動量の低下により、体重が増える傾向がある。
*鉛様倦怠感:手足が鉛のように重く感じられ、体を動かすのが非常におっくうになる。
これらの症状が秋から冬にかけて現れ、春になると自然に改善するのが季節性うつの大きな特徴です。しかし、もし症状が春になっても続いたり、以下に挙げるような「危険なサイン」が見られたりする場合は、本格的なうつ病に移行しているか、あるいは別の問題を抱えている可能性があります。
3.うつ病につながる危険なサインについて
心身が発しているSOSを見逃さないでください。以下のサインが一つでも当てはまる場合、セルフケアだけで乗り切ろうとせず、専門家への相談を推奨します。
*何をしても楽しいと感じられない(興味・喜びの喪失)
以前は好きだった趣味や活動に全く興味がわかない、友人と会っても心から笑えない。これはうつ病の中核的な症状の一つです。
*自分を責め、価値がないと感じる(罪悪感・無価値感)
「全部自分のせいだ」「自分なんていない方がいい」といった、根拠のない強い自己否定の感情に苛まれる。
*死にたい、消えてしまいたいという気持ちがよぎる(希死念慮)
これは最も危険なサインです。具体的な計画がなくても、「もう終わりにしたい」という気持ちが少しでも頭をよぎったら、すぐに助けを求めてください。
*仕事や家事など、日常の役割が果たせない
集中力が続かず簡単なミスを連発する、朝起き上がれず会社や学校に行けない、お風呂に入ったり着替えたりすることすら億劫になるなど、日常生活に深刻な支障が出ている。
*不眠や食欲不振が続く
季節性うつの「過眠」「過食」とは逆に、「眠れない」「食欲が全くない」といった症状が続く場合も、うつ病のサインとして注意が必要です。
これらのサインは、あなたの心が限界に達している証拠です。決して「気合が足りない」「甘えている」などと自分を追い詰めないでください。
秋の気分の落ち込みは、誰にでも起こりうる自然な反応です。しかし、それがあなたの日常を脅かし始めたなら、適切な行動をとることが何よりも大切です。
まずは、日光を浴びること、適度な運動、バランスの取れた食事といったセルフケアを試してみましょう。これらは、セロトニンの分泌を助け、体内時計を整えるのに有効です。
しかし、前述した「危険なサイン」を感じる場合は、勇気を出して心療内科や精神科の扉を叩いてみてください。専門医はあなたの状態を正確に診断し、光療法やカウンセリング、薬物療法など、あなたに合った治療法を提案してくれます。
秋に感じる気分の落ち込みは、日照時間の減少に伴う生理的な反応が原因であることが多いですが、時にそれは本格的なうつ病の入り口である可能性も秘めています。特に、「喜びの喪失」「強い罪悪感」「希死念慮」といった危険なサインを見逃してはいけません。
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なぜか気分が沈む季節の変わり目。それは「季節性うつ」という精神疾患かもしれません
精神科コラム
《2025年11月7日8:14 公開》
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多くの人が経験する、季節の変わり目の不調の正体である「季節性うつ」について、その原因と、今日からすぐに実践できるセルフケアについて記事を書いていきます。
1.季節の変わり目、秋に気分が沈む「季節性うつ」とは
季節性うつとは、特定の季節にだけうつ病に似た症状が現れる精神疾患の一種です。特に、日照時間が短くなる秋から冬にかけて発症することが多いため、「冬季うつ」とも呼ばれています。春になり日差しが強くなると、自然に症状が改善していくのが大きな特徴です。主な症状としては、以下のようなものが挙げられます。
* 一日中気分が落ち込んでいる、何をしても楽しめない
* とにかく眠い、寝ても寝ても眠気がとれない(過眠)
* 無性に炭水化物や甘いものが食べたくなる(過食)
* 体重が増加する
* 体が鉛のように重く、エネルギーが湧かない(倦怠感)
* 集中力が続かず、仕事や家事が手につかない
一般的なうつ病が不眠や食欲不振を伴うことが多いのに対し、季節性うつは過眠や過食といった逆の症状が出やすい傾向にあります。「食欲の秋だから」「涼しくなって眠いだけ」と見過ごされがちですが、これらのサインが続く場合は注意が必要です。
2. 秋になると心が不安定になる、その原因について
秋になると心身のバランスが崩れやすくなるのでしょうか。その最大の原因は「日照時間の減少」にあると考えられています。
太陽の光を浴びる時間が短くなることで、私たちの脳内にある2つの重要な物質のバランスが乱れてしまうのです。
一つは、精神を安定させる働きを持つ「セロトニン」です。セロトニンは「幸せホルモン」とも呼ばれ、太陽の光を浴びることで分泌が促されます。秋になって日照時間が減ると、セロトニンの分泌量も減少し、不安や気分の落ち込みを引き起こしやすくなります。甘いものや炭水化物を無性に食べたくなるのも、脳がセロトニンの材料となる糖質を欲しているためだと言われています。
もう一つは、睡眠を促すホルモンである「メラトニン」です。メラトニンは、暗くなると分泌が増え、体を休息モードに切り替える働きをします。しかし、日中の日照不足でセロトニンが減ると、夜になってもメラトニンが正常に分泌されにくくなり、体内時計が乱れてしまいます。その結果、「夜しっかり眠れず、日中に強い眠気に襲われる」といった睡眠トラブルにつながるのです。
つまり、秋の気分の落ち込みは、気候の変化そのものよりも、太陽の光という物理的な要因によって引き起こされる、体の自然な反応と言えます。
3.セルフケアについて
季節性うつは、日照不足が主な原因であるため、生活習慣を見直すことで症状を和らげることが期待できます。まずは以下のセルフケアを紹介いたします。
* 意識的に日光を浴びる
最も効果的な対策は、原因である日光不足を解消することです。特に、体内時計をリセットする効果が高い午前中の光を浴びるのがおすすめです。毎朝30分程度の散歩を習慣にしたり、通勤時に一駅手前で降りて歩いたり、窓際の席で作業したりするだけでも効果があります。
* 規則正しい生活を心がける
体内時計の乱れを整えるために、毎日同じ時間に起き、同じ時間に寝ることを意識しましょう。休日も平日と同じ生活リズムを保つことが大切です。決まった時間に食事をとることも、体内リズムを整える助けになります。
* バランスの取れた食事
セロトニンの材料となる必須アミノ酸「トリプトファン」を多く含む食品を積極的に摂りましょう。バナナ、大豆製品(豆腐・納豆)、乳製品(チーズ・ヨーグルト)、ナッツ類などがおすすめです。過食に走りやすい時期だからこそ、栄養バランスを意識した食事を心がけることが、心の安定につながります。
* 適度な運動を習慣にする
ウォーキングやジョギング、ヨガなどのリズミカルな運動は、セロトニンの分泌を促し、気分転換にもなります。激しい運動である必要はありません。「気持ちいい」と感じる程度の運動を、週に数回取り入れてみましょう。
セルフケアを試しても気分が晴れない、日常生活に支障が出ている場合は、決して一人で抱え込まず、専門機関に相談することも考えてみてください。
精神科や心療内科では、専門的な治療を受けることができます。季節性の気分の落ち込みには高照度の光を浴びる「光療法」が有効です。また、考え方の癖を修正する「認知行動療法」などのカウンセリングも行います。
必要に応じて、セロトニンに働きかける薬などを使うこともできます。薬物療法は医師の指導のもとで安全に進められ、他にも生活習慣の改善指導や漢方薬の処方など、選択肢は様々です。
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