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突然の不安や恐怖はパニック障害かも
精神科コラム
《2025年9月19日9:30 公開》
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電車に乗っている時、会議の最中、あるいは家でくつろいでいる時、何の前触れもなく、突然、心臓が激しく鳴り出し、息が苦しくなった経験はありませんか。もしかしたら、それは「パニック障害」という病気のサインかもしれません。
この記事では、その突然の不安や恐怖の正体、そしてどうすればその苦しみから抜け出せるのかを解説していきます。
1.「死ぬかも」その発作の正体はパニック障害
「このままでは死んでしまう」と感じるほどの強烈な発作。これは「パニック発作」と呼ばれ、パニック障害の中心的な症状です。多くの場合、以下のような身体症状や精神症状が、突然、数分から数十分の間に一気に高まります。
☑激しい動悸や心拍数の増加
☑息切れや息苦しさ、窒息感
☑めまい、ふらつき、気が遠くなる感じ
☑手足の震えやしびれ
☑吐き気や腹部の不快感
☑自分が自分でないような感覚、現実感の喪失
☑コントロールを失うことへの恐怖
パニック障害は、突然理由もなく強い動悸や息苦しさ、めまい、発汗などが起こる「パニック発作」が特徴的な病気ですが、この発作以外にも大きく二つの特徴があります。
1)一つ目は予期不安
これは「また発作が起こるのではないか」という強い不安感が常に付きまとう状態です。例えば、過去に電車内でパニック発作を経験した人が、「もしまた電車で倒れたらどうしよう」と考え、発作が起こっていないときでも動悸や不安感に襲われることがあります。この予期不安は、実際に発作を誘発することもあり、生活の質を大きく下げます。
2)二つ目は広場恐怖
広場恐怖とは「すぐに助けを得られない場所」や「逃げられない状況」に強い恐怖を感じ、避けるようになることです。具体例として、過去に混雑したショッピングモールで発作を起こした経験から、以後は人混みや長時間の外出を避けるようになるケースがあります。これが進行すると、外出全般を控えるようになり、仕事や学業、家族との外出にも支障が出ます。
これら二つの特徴は、パニック障害の悪循環を強化します。発作 → 予期不安 → 回避行動(広場恐怖)→ 社会生活の制限という流れが固定化されると、症状は慢性化しやすくなります。
精神科での治療は、薬物療法(SSRIや抗不安薬)で発作や不安を抑えると同時に、認知行動療法で「不安の予測」や「回避行動」を少しずつ修正していくことが中心です。適切な治療により、多くの人が再び発作や不安に縛られない生活を取り戻せます。
2.なぜ起こる、その治療は
パニック障害のはっきりとした原因はまだ完全には分かっていません。しかし、ストレスや過労、睡眠不足などが引き金となり、脳内の不安や恐怖をコントロールする神経伝達物質(セロトニンなど)のバランスが乱れることが関係していると考えられています。
わかりやすく言うと、脳の警報装置(扁桃体など)が、危険がないにもかかわらず誤作動を起こしてしまうことにあると考えられています。火災報知器が煙もないのに鳴り響くようなものだとイメージしてください。あなたの体に異常があるわけではないのです。
大切なのは、適切な治療によって、脳の誤作動を正常な状態に戻すことができるということです。精神科や心療内科では、主に二つのアプローチで治療を進めます。
- 薬物療法
治療の主軸となるのは、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)と呼ばれる種類の抗うつ薬です。このお薬は、脳内のセロトニンバランスを整え、不安や恐怖を感じにくくする効果があります。効果が出るまでに数週間かかりますが、脳の警報装置の感度を根本から調整していくイメージです。また、発作が起きた時の頓服として、即効性のある抗不安薬を処方することもあります。
- 精神療法(カウンセリング)
特に「認知行動療法」が非常に有効です。カウンセラーとの対話を通して、パニック発作に対する「破局的な考え方」(例:「心臓がドキドキするのは心臓発作の兆候だ」→「命に別状はない発作の症状だ」)を修正していきます。また、避けていた場所や状況に、少しずつ安全な形で挑戦していく「曝露(ばくろ)療法」も行い、自信を取り戻していきます。
薬で症状を抑えながら、認知行動療法で不安への対処法を身につける。この両輪で、回復を目指すのが最も効果的です。
3.発作が起きた時と日常生活での対処法
治療には時間がかかりますが、発作への不安を少しでも和らげるために、ご自身でできる対処法を知っておくことは大きな助けになります。
もし、発作が起きてしまったら、まずは「これはパニック発作だ、10分くらいで収まる、命に別状はない」と心の中で唱えてください。そして、息を吸うことよりも、ゆっくりと時間をかけて息を吐き出す「腹式呼吸」を試みましょう。可能であれば、安全な場所に座り、冷たいペットボトルを握ったり、壁に手をついたりして、自分の体の外にある感覚に意識を向けるのも有効です。
また、日常生活では、脳の警報装置を過敏にさせない工夫が大切です。十分な睡眠をとり、栄養バランスのよい食事を心がけましょう。特に、カフェインやアルコールは発作を誘発しやすいため、控えることをお勧めします。ウォーキングなどの軽い運動や、ヨガ、瞑想といったリラックスできる時間を作ることも、心の安定に繋がります。無理のない範囲で、少しずつ取り入れてみてください。
パニック障害は、決して珍しい病気ではありません。適切な治療を受ければ、回復に向かうことができます。
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「もしかして依存症?」病院の何科を受診すべきか解決
精神科コラム
《2025年9月12日9:30 公開》
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この記事では、依存症とは何か、そして最も大切な「病院の何科を受診すればよいのか」という内容で書いていきます。
1. 「依存症」は意志の弱さではありません
まず知っていただきたいのは、依存症は「意志が弱い」「だらしない」といった性格の問題ではないということです。
依存症は、特定の物質や行動への渇望を自分ではコントロールできなくなる「脳の病気」なのです。脳の中にある「報酬系」と呼ばれる回路がハイジャックされ、自分でも不合理だと分かっているのに、その行為を渇望し、繰り返してしまいます。そして、依存症には、以下のように様々な種類があります。
・物質への依存
アルコール、ニコチン(タバコ)、処方薬や市販薬、違法薬物など、特定の物質を体に取り込むことへの依存です。
・プロセス(行為)への依存
ギャンブル、インターネット、ゲーム、買い物、あるいは恋愛やセックスといった特定の行為にのめり込む状態を指します。
・関係への依存(共依存)
特定の相手を助けたり、世話を焼いたりすることに自分の価値を見出し、その「役割」自体に依存してしまう状態です。相手の問題に介入することで、自分自身の問題から目を背けていることも少なくありません。
・自己の身体や感覚に関わる依存
過食や自傷行為のように、自分自身の体を使った特定の行為が、つらい感情を紛らわすための唯一の手段となり、やめたくてもやめられなくなる状態です。行為そのものへの依存といえます。
・社会的行動に関する依存
ワーカホリック(仕事依存)に代表され、仕事などの社会的活動に過度に没頭します。それをしていないと不安や罪悪感に苛まれ、健康や家庭を犠牲にしてしまう状態を指します。
これらに共通しているのは、「その対象なしではいられなくなる」「生活の中心になり、学業や仕事、人間関係に支障が出る」「心身の健康を損なうと分かっていてもやめられない」という点です。
2. 依存症の相談は「精神科」へ
依存症という脳と心の病気を専門的に扱うのは、主に精神科の領域となります。
- なぜ精神科なのでしょうか
依存症が単なる意思の弱さや性格の問題ではなく、脳や心の病気として捉えられることが多いためです。精神科では、依存行動の背後にある精神疾患や神経生物学的要因を含め、医学的根拠に基づいた診断と治療が行えます。また、薬物療法と心理療法の両面からアプローチできるため、再発予防や根本改善が期待できます。
依存症には多様な形がありますが、その背景にはうつ病、不安障害、境界性パーソナリティ障害、PTSDなどが隠れていることが少なくありません。これらの疾患は脳内の神経伝達物質の異常やストレス耐性の低下、過去のトラウマなどによって引き起こされ、依存行動を強化します。
- 代表例:ギャンブル依存症やアルコール依存症
ギャンブル依存症の例では、勝敗にかかわらず賭け事への衝動が抑えられず、生活費や借金を費やしてしまうケースがあります。背景には、うつ病や双極性障害の軽躁状態、ADHDによる衝動性の高さなどが潜んでいる場合があります。精神科では、背景疾患の診断を行い、抗うつ薬や気分安定薬で症状をコントロールしつつ、認知行動療法で「勝てるはず」という誤った認知や衝動的行動を修正します。
また、アルコール依存症の例では、日常的なストレスや抑うつ感、不眠を和らげるために飲酒を続け、やがてコントロールが効かなくなるケースが多く見られます。背景として、長期的なうつ病や不安障害、PTSDなどが隠れていることもあります。精神科では離脱症状の管理に向けた薬物療法(抗酒薬や抗不安薬)を行い、必要に応じて抗うつ薬で基礎疾患を治療します。そのうえで、再発予防のための心理療法や集団療法を組み合わせます。
3. 病院以外の相談先
病院以外にも頼れる場所があります。
- お住まいの地域にある「保健所」や「精神保健福祉センター」に相談
これらは公的な機関であり、無料で専門の相談員が話を聞いてくれます。そして、あなたの状況に合った専門医療機関や支援施設を紹介してくれます。
- 「自助グループ」の存在
アルコール依存症の方のためのAA(アルコホーリクス・アノニマス)や、ギャンブル依存症の方のためのGA(ギャンブラーズ・アノニマス)など、同じ問題を抱える人々が集まり、匿名で体験を分かち合う場です。
以上、依存症は、適切な治療と支援に繋がることで、回復できる病気です。
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恋愛依存症かも?精神科の治療で自分らしさを取り戻す
精神科コラム
《2025年9月5日9:30 公開》
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この記事では、恋愛依存症のサインや精神科でできる治療について解説していきます。
1.恋愛依存症のサイン
恋愛依存症は、正式な病名ではありません。しかし、その状態によって日常生活に支障をきたし、心の健康を損なう方は少なくないのです。
アルコールやギャンブルへの依存と同じように、特定の対象(この場合は恋人や恋愛そのもの)なしでは精神的な安定を保てなくなっている状態を指します。決して特別なことではなく、誰にでも起こりうる心の動きなのです。具体的には、以下のようなサインが見られます。
☑恋人の言動に一喜一憂し、感情の起伏が激しい
☑自分の予定より、常に恋人の都合を最優先する
☑恋人に嫌われることを恐れ、自分の意見を言えない
☑恋愛以外の趣味や友人関係に興味が持てなくなる
☑一人でいる時間に強い孤独感や不安を感じてしまう
☑相手に尽くしすぎて、金銭的・精神的に疲弊する
☑別れた後、すぐに別の恋愛相手を探そうとする
これらの行動の根底には、低い自己肯定感や「見捨てられることへの強い不安」が隠れていることが多くあります。
「ありのままの自分では愛されない」という思い込みから、相手に過剰に尽くしたり、自分を犠牲にしたりして、関係を繋ぎ止めようと必死になってしまうのです。その結果、心はますますすり減り、苦しい恋愛から抜け出せなくなります。
2.精神科での治療
「精神科」と聞くと、少し怖いイメージを持つ方もいらっしゃるかもしれません。
「何をされるのだろう」「薬漬けにされるのでは」といった不安を感じる方もいるでしょう。
しかし、心配はいりません。
恋愛依存症の治療は、あなた自身が主体となり、医師やカウンセラーと二人三脚で、心の癖を解きほぐしていく作業が中心となります。
⑴精神科や心療内科と恋愛依存症の関係
精神科や心療内科では、うつ病、不安障害、パニック障害、強迫性障害、PTSD、双極性障害、適応障害など、多岐にわたる精神疾患や心身症が診療・治療の対象となります。これらの疾患は、脳内の神経伝達物質のバランスやストレス反応、過去のトラウマなどが関係しており、日常生活や人間関係に大きな影響を及ぼします。
一方で、恋愛依存症は正式な診断名ではありませんが、心理的特徴や行動パターンが他の精神疾患と密接に関わることが多く、精神科・心療内科で診察を受けることができます。
例えば、境界性パーソナリティ障害では、見捨てられることへの強い恐怖から恋人に過剰に依存し、感情の起伏が激しくなることがあります。また、うつ病や不安障害の背景に自己肯定感の低さがある場合、恋人からの承認や愛情が自己価値の拠り所となり、相手に執着する行動が強まることもあります。
具体例として、強い不安感を抱える女性が交際相手からの連絡が少しでも減ると「嫌われたのでは」と動揺し、何度も電話やメッセージを送ってしまうケースがあります。この背景には、不安障害や愛着の不安定さが潜んでいることがあり、さらに、過去の恋愛や家庭環境での拒絶体験がトラウマとなり、恋愛依存的行動を強化することも少なくありません。
⑵治療法について
精神科や心療内科の治療では、薬物療法と心理療法を組み合わせることが一般的です。
①カウンセリング(心理療法)
専門家との対話を通して、あなたがなぜ恋愛に依存してしまうのか、その根本的な原因を探ります。生い立ちや過去の経験を振り返り、自分の思考パターンや感情の動きに気づくことが第一歩となります。
認知行動療法や対人関係療法などの心理的アプローチを行います。恋愛依存症的な行動も「病気の一部」として理解し、感情コントロールや自己肯定感の回復を目指すことが、根本的な改善につながります。
②薬物療法
恋愛依存症そのものに直接効く薬はありません。しかし、依存状態の背景に、うつ病や不安障害、パニック障害などが隠れている場合が少なくないのです。不眠や激しい落ち込み、強い不安感といった症状が日常生活の大きな妨げになっている際には、気持ちを安定させるお薬を使用することがあります。
薬物療法では、症状の背景にある疾患に応じて処方が行われます。うつ病や不安障害が強い場合はSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が、感情の波が激しい場合は気分安定薬や非定型抗精神病薬が用いられることがあります。
例えば、強い不安から恋人に何度も確認連絡をしてしまうケースでは、SSRIで不安症状を軽減し、同時に認知行動療法で依存的思考を修正します。また、衝動的な行動や感情の爆発が目立つ場合には、気分安定薬を併用することで感情のコントロールがしやすくなります。また、薬物療法はあくまで症状を和らげる補助的手段であり、心理療法と組み合わせることで根本改善を目指します。
「恋愛の悩みで病院に行くなんて大げさだ」と思う必要はありません。
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