声が出ない(心因性失声症) Psychogenic aphonia
ストレスや心的外傷等による心因性の原因から、発声器官や脳に異常がないのに声を発することができなくなった状態のことを失声症(心因性失声症)と言います。声が出ない、話せない状態だけではなく、声が出てもかすれたり、しわがれ声になってしまう等の状態も含みます。30歳以上の女性に多いですが、男性にも見られます。突然、声が出なくなるものですから周囲も驚き、耳鼻科、脳外科等身体科を受診した後我々、精神科、心療内科を受診されることが多いです。
鑑別すべきものは声帯炎等の声帯の病気、失語症等ですが、我々を受診した時点でこれらが否定されていることがほとんどです。失語症とはブローカー領野、ウェルニッケ領野等言語機能に関する脳領域が脳血管障害等により障害されて生じる高次脳機能障害です。
心因性失声症は精神医学的には転換性障害の症状の1つ
心因性失声症は精神医学的には転換性障害の症状の1つと考えられています。転換性障害は「随意運動または感覚機能の障害による症状が見られ、かつ神経疾患ないしは医学的疾患としての所見を欠いた状態。」として定義されます。米国精神医学会のDSMⅣでは身体表現性障害のカテゴリーに含まれましたが、DSM5では新設された身体症状関連障害というカテゴリーに分類され、変換症/転換性障害と名称も一部変更され、診断基準も「発症の際に心因を必ずしも必要しない」が加筆され、「症状が作為に基づくものではないこと」という断り書きが削除されています※。
心因性失声症の治療
心因性失声症の治療は心理療法と不安や拘りの軽減等の目的でSSRI等の抗うつ薬や抗不安薬等を補助的に使います。特効薬的なものがあるわけではないので、治療には時間がかかりますし、気長に多剤大量療法にならないように注意しながら環境調整等の心理的サポートを行います。
※参考:転換性障害の診断基準(DSM5)
- A.ひとつまたはそれ以上の随意運動,または感覚機能の変化の症状
- B.その症状と,認められる神経疾患または医学的疾患とが適合しないことを裏づける臨床的所見がある.
- C.その症状または欠損は,他の医学的疾患や精神疾患ではうまく説明されない.
- D.その症状または欠損は,臨床的に意味のある苦痛,または社会的,職業的, または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている、または医学的な評価が必要である。
※公開/更新日: 2017年12月4日 12:56