この記事では、記憶が飛ぶ症状が現れた時に考えられる病気、特に注意すべき点や病院を受診するタイミングについて、専門医の視点からわかりやすく解説します。また、適切な治療法についても触れていきます。
1.記憶が飛ぶとは?
記憶が飛ぶとは、ある時間帯の記憶がすっぽりと抜け落ちてしまっている状態のことです。一時的に意識がなくなる場合や、出来事の一部が思い出せない場合など、様々なケースがあります。日常生活で以下のような経験がある場合は、注意が必要です。
・気が付くと、今どこにいるのか、何をしていたのかが分からなくなる
・会話中に、話していた内容を忘れてしまう
・過去の出来事を思い出せない
・日常生活で、何度も同じことを繰り返してしまう
・時間感覚が曖昧になる
これらの症状は、単なる疲れやストレスによるものと安易に考えず、症状が頻繁に起こる、または日常生活に支障をきたす場合は、専門的なサポートが必要となります。
2.記憶が飛ぶ時に考えられる病気
記憶が飛ぶ症状が現れる時に考えられる主な病気は、以下の通りです。
- てんかん
てんかんは、脳の神経細胞の異常な興奮によって、発作が繰り返し起こる病気です。 発作の種類によっては、意識を失ったり、記憶が飛んだりすることがあります。てんかんの診断と治療方針決定には脳波検査を行い、治療には、抗てんかん薬が用いられます。
- 認知症
認知症は、脳の神経細胞が減少し、認知機能が低下する病気です。記憶障害が主な症状ですが、時間や場所の感覚が曖昧になったり、出来事を忘れたりすることもあります。
アルツハイマー型認知症では検査技術の発展により、より関連する領域の萎縮の有無をスコアという値で評価できるようになりました。また、脳の血流の低下部分を検査できるSPECT検査では、アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症では血流低下部位の違いが見られることが知られています。このように複数の検査により、認知症の種類が判明し、治療や対策が行われます。
- 解離性障害
解離性障害は、強いストレスやトラウマ体験によって、意識や記憶、自己認識などが分離してしまう病気です。記憶喪失や、自分が自分でないような感覚(離人感)が現れることがあります。解離性障害は、精神的なケアが重要となります。
- 一過性全健忘
一過性全健忘とは、突然記憶が抜け落ちる一時的な記憶障害です。例えば、朝の出来事や今いる場所が思い出せなくなる一方で、言葉を話すなど日常生活の動作は問題なく行えます。多くは数時間で回復し、後遺症も残りませんが、原因ははっきりしておらず、ストレスや過労が関与する可能性も指摘されています。MRIやCT検査でも異常が見つからないことが多く、再発のリスクもあるため、繰り返す場合は専門医を受診することが大切です。
- その他の病気
記憶が飛ぶ原因には、一過性全健忘以外にもさまざまな病気が関係している可能性があります。例えば、脳腫瘍ができると脳の圧迫によって記憶を司る部分に影響を与え、物忘れや記憶障害が現れることがあります。また脳卒中によって脳の血流が遮断されると、記憶に関わる領域がダメージを受け、一部の記憶を失うこともあります。さらに、低血糖では脳へのエネルギー供給が不足し、一時的に意識がもうろうとする、直前の出来事を思い出せなくなることがあります。
また、薬物中毒による脳への影響も記憶障害を引き起こす原因の一つです。例えば、過剰なアルコール摂取は短期記憶に影響を与え、「ブラックアウト」と呼ばれる記憶の欠落を引き起こすことがあります。さらに、睡眠障害が続くと脳が十分に休息を取れず、集中力や記憶力が低下し、まるで記憶が飛んでしまったように感じることもあります。
このような症状が続く場合は、単なる疲労や加齢のせいと考えず、早めに専門医を受診することが大切です。
3.病院に行くべきかどうかの判断基準
では、どのような場合に病院に行くべきなのでしょうか?以下の項目を参考に、ご自身の状態をチェックしてみてください。
・頻度と持続時間
□記憶が飛ぶ症状が頻繁に起こる
□症状が数分以上続く、または繰り返し起こる
□日常生活に支障が出るほどの頻度で起こる
・症状の内容
□完全に記憶が抜け落ちている
□意識を失うことがある
□過去の出来事を思い出せない
□時間や場所が分からなくなる
□けいれんや体の震えを伴う
・その他
□頭痛や吐き気、めまいなどを伴う
□持病がある、または薬を服用している
□原因が分からない
□自分で対処できない
上記の項目に複数当てはまる場合、早めに専門医への相談を検討することをおすすめします。
記憶が飛ぶ症状は、決して一人で抱え込むべき問題ではありません。まずは気軽に精神科・心療内科に相談してみてください。
※公開/更新日: 2025年3月19日 16:42