年齢を重ねると、多くの人は認知機能が低下するものです。また、怒りっぽくなるなど性格の変化が出てくる方も多く、周囲の人はその言動に悩まされることがあります。その背景には認知症だけでなく、大人の発達障害が関与している可能性も考えられるのです。
ここでは、認知症と発達障害の違いについて、書いていきます。
1.認知症とは
認知症とは、脳の器質的な病変によって、記憶力、判断力、理解力といった認知機能が持続的に低下する状態を指します。これは、加齢による変化とは異なり、日常生活に支障をきたすほどの影響があります。認知症にはいくつかの種類があり、最も多いのはアルツハイマー型認知症で、脳の萎縮が主な原因で、初期には記憶障害が前景に立ちます。同じく脳の萎縮が原因のレビー小体型認知症では幻視やパーキンソン症状が見られ、血管性認知症は脳血管障害によって引き起こされ、梗塞部位に関連した症状が見られます。
2.発達障害とは
発達障害は、生まれつきの脳機能の発達の偏りによって、社会生活や学習に困難が生じる状態です。これは、病気というよりも個人の特性と捉えることができます。
発達障害には、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、学習障害(LD)などがあります。これらの症状は幼少期から見られることが多く、個人差が大きいのが特徴です。また、環境の変化やストレスによって症状が変動することもあります。
2004年に発達障害支援法がスタートし、注目されましたが、徐々に大人の発達障害についても認知されるようになりました。例えば、「単純なミスを繰り返す」、「職場によく遅刻する」、「人間関係がうまくいかないことが多い」など社会生活上問題を抱えている場合に気が付くことが多いようです。
3.高齢期における認知症と発達障害の鑑別
現在、発達障害は子供だけの問題ではありません。ある程度高齢になって発達障害の症状が問題となった場合、誤って認知症と診断されることがあります。認知症と発達障害は、発症時期、原因、症状の特徴が異なります。
認知症は主に高齢期に発症し、徐々に進行する病気です。原因は脳の器質的な変化、例えば脳の萎縮や血管障害などが挙げられます。認知症の主な症状は、記憶力の低下であり、日常生活に支障をきたすほど影響が大きくなります。コミュニケーション能力も低下し、意思疎通が困難になることも多くなります。
一方、発達障害は生まれつきの脳機能の偏りによって生じます。症状は幼少期から見られることが多いですが、大人になってから初めて表面化することもあります。病気というよりも個人の特性と捉えられます。認知症ほど記憶力の低下は見られませんが、不注意の特性により忘れ物や失くしものが多い、コミュニケーションに特有の困難さが見られることがあります。
認知症と発達障害を鑑別する際の重要なポイントは以下の通りです。
・主な発症時期: 認知症は高齢期に発症、発達障害は幼少期から
・原因: 認知症は脳の器質的病変、発達障害は脳機能の偏り
・記憶力: 認知症では顕著な低下、発達障害では比較的保たれる(不注意による物忘れ)
・コミュニケーション: 認知症では意思疎通困難、発達障害では特有の困難さ(空気が読めない、相手の意図がわからないなど)
このように、認知症と発達障害は異なる特徴を持っています。
4.専門医による診断と検査
認知症や発達障害が疑われる場合は、専門医による正確な診断が不可欠です。診断には、問診、認知機能検査、心理検査、脳画像検査、血液検査、脳波検査などが行われます。
- 検査
脳画像検査: MRIやSPECT検査を用いて脳の状態を詳しく調べます。
MRI検査:脳の萎縮具合や梗塞の有無などを画像で確認します。
SPECT検査:脳の血流分布を画像化して、脳の血流が低下している部位や度合いを調べる検査です。 この検査は、てんかんの診断にも有効です。
血液検査: 血液検査は、主に血液一般検査(赤血球、白血球、血小板等の数を見る)、生化学検査 (肝機能、腎機能、高脂血症や糖尿病等の検査、各種ホルモンの値の検査等)や服用している 薬物の血中濃度検査等を行います。甲状腺機能や貧血の有無を調べ、うつ状態の鑑別にも役立 ちます。また、ムズムズ足症候群の原因となる鉄欠乏性貧血を特定することもあります。
脳波検査: 脳波は、脳の機能を評価する生理検査です。てんかんの診断と治療方針の決定に不可欠な 検査 です。高齢発症てんかんは、しばしば認知症と間違えられることがあります。
- 治療とケア
認知症の治療には、薬物療法(抗認知症薬など)や非薬物療法(リハビリテーションなど)があります。発達障害の治療には、環境調整、ソーシャルスキルトレーニング、認知行動療法、薬物療法などがあります。
・薬物療法: 認知症では症状の進行を遅らせるための抗認知症薬や脳梗塞を予防するための投薬が行われます。BPSD(心理社会的症状)の緩和のために、向精神薬(抗うつ薬、抗不安薬、抗てんかん薬)や漢方薬が必要に応じて使用されます。発達症では不注意の特性を改善するための薬剤や随伴する精神症状の緩和のために同じく向精神薬が用いられます。
・心理療法: 認知行動療法やソーシャルスキルトレーニングなど、個々の状態に応じた心理療法を行います。いずれの場合も環境調整は重要です。
・生活習慣の改善: バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠など、生活習慣の改善も重要です。
認知症と発達障害は異なる病態ですが、どちらも早期発見と適切な対応が重要です。
※公開/更新日: 2025年2月3日 10:00