この記事では、双極性障害について正しい知識と受診を検討する際のポイントをお伝えします。
双極性障害とは何か
双極性障害は、気分が高まる「躁状態」と気分が落ち込む「うつ状態」という全く異なる2つの状態が交互に現れる精神疾患です。以前は「躁うつ病」と呼ばれていたこともあります。重要なのは、躁状態でもうつ状態でもない、いわゆる普通の状態(寛解期)があることが特徴であり、常に症状が現れているわけではない点です。
双極性障害は20歳前後の若年期に発症することが多く、適切な治療を受けずに放置すると再発を繰り返しやすい疾患です。しかし、薬物療法と心理社会的治療を組み合わせた適切な治療により、多くの方が充実した生活を送ることが可能です。
双極性障害の症状について
躁状態の特徴
双極性障害における躁状態では、以下のような症状が見られます。
- 自尊心の肥大、または誇大な考え
- 睡眠欲求の減少(3時間眠っただけで十分と感じる)
- 普段より多弁であるか、しゃべり続けようとする切迫感
- 夜も眠らずに動き回る
- 話が止まらない、大きな声で話し遮られると怒る
- 危険な行動をするなど異常なハイテンション状態
双極Ⅰ型障害の躁状態は、社会生活に支障をきたすほどの激しい躁状態を引き起こします。一方、双極Ⅱ型障害では「軽躁状態」と呼ばれる、やや程度の軽い躁症状が現れます。
うつ状態の特徴
双極性障害のうつ状態では、一般的なうつ病と同様の症状が見られます。
- 気分が落ち込む
- 興味・関心が無くなる
- 眠れない、または過眠
- 過食や食欲低下
- 不安症状の合併
- 精神運動制止
- 気分変動性
- 自殺念慮
双極性障害のうつ状態の特徴として、過眠、過食、不安症状の合併、精神運動制止、気分変動性、精神病症状、自殺念慮などは、単極性うつ病よりも双極性うつ病に生じやすいことが知られています。
双極性障害と単なるうつ病の違い
双極性障害と単なるうつ病(大うつ病性障害)の大きな違いは、躁状態や軽躁状態のエピソードがあるかどうかです。双極性障害のうつ状態では、通常のうつ病治療薬を投与しても十分な効果を得られず、逆に躁状態に転じることがあります。
双極性うつ病を疑う要素としては、以下のような点が挙げられます。
- 抗うつ薬誘発性の(軽)躁病エピソード
- 頻回のうつ病エピソード
- 季節関連性(冬季うつ)
- 双極性障害の家族歴
- 若年発症
これらの特徴があるため、正確な診断には専門的な医学知識と十分な経過観察が必要となります。
双極性障害の診断について
双極性障害の診断は、DSM-5などの診断基準に基づいて行われます。躁病エピソードもしくは混合エピソードが1回でもあれば双極Ⅰ型障害と診断され、軽躁病エピソードの場合には大うつ病エピソードが他の時期に確認された場合に双極Ⅱ型障害と診断されます。
診断においては、症状の経過をみながら、患者様ご本人の生活や家族歴、併せて他の体の病気の症状の有無、服薬状況などを総合的にみて判断します。場合によっては、血液検査、CTやMRIなどの検査を行うこともあります。
「躁病エピソード」の症状が「1週間以上」続くことが一度でもあれば「Ⅰ型」と診断され、症状の程度としては仕事、家庭、経済状況、人間関係に影響が出るレベルとなります。
双極性障害の治療について
治療の基本方針
双極性障害の治療目標は、気分の波が安定している状態の寛解期をできるだけ長く維持し、以前と変わらない生活ができることを目指すことです。一般的には薬物療法・精神療法・環境調整の3つが軸となります。
薬物療法
双極性障害の治療には薬物治療と心理社会的治療がありますが、基本となるのは薬物治療です。薬物療法では躁やうつの波を小さくする気分安定薬が用いられますが、最近では抗精神病薬を用いることも多くなっています。
双極性障害は再発率が高く、長期にわたる治療が必要と言われており、治療の継続しやすさが大切になります。そのため、副作用の少ないお薬を選び、必要最小限を処方することが重要です。
治療段階に応じた薬物療法は以下のようになります。
- 予防:気分安定薬、一部の抗精神病薬
- 躁状態:気分安定薬、抗精神病薬
- うつ状態:気分安定薬、一部の抗精神病薬、抗うつ薬
病気の症状が落ち着いてきて「もう大丈夫」と思っても、薬を飲むのを止めてしまったり、飲む量を自己判断で変えてしまったりすると、再発したり副作用が出たりするおそれがあります。
心理社会的治療
薬物療法と並行して行われる心理療法は、症状管理、再発予防、生活の質の向上に役立ちます。精神療法では、ストレスの捉え方を柔軟にする方法や、ストレスの対処法を学んで、調子の振れ幅をさらに小さくするお手伝いをします。
環境調整と生活習慣
環境調整では生活リズムを整えるなど生活指導を行っていきます。日常生活でのセルフケアは症状管理と再発予防に不可欠です。
生活リズムを整えることの重要性
徹夜したりして、睡眠時間が短くなると、躁状態を起こしやすくすることがわかっているので、忙しいときでも睡眠時間を確保して、生活のリズムを一定にするよう、心がけることはとても大切です。
また、自分自身のリズムの経過を知るために、睡眠覚醒リズム表(睡眠覚醒のリズムと気分と日常の行動を連続的に記録します)を続けてつけてみることをお勧めします。睡眠覚醒リズム表をつけていくことで、気分の波と、睡眠覚醒リズムの関係や日常の行動との関連性を把握することができます。
ストレスは双極性障害の症状を悪化させる主要な要因です。可能な限りストレスを避けること、そして「元気になろう」とあせらず、むしろ「気持ちが楽になる」ことをまずは目指すことが大切です。
早期発見と早期対応の重要性
再発の前兆サイン
躁状態やうつ状態の前兆を早期に認識することで、悪化を防ぐための対策を講じることができます。これらのサインに気づいたら、担当医に連絡し、対処計画に従うことが重要です。
治療を受けずに放置した場合のリスク
双極性障害は治療せずに放置すると、多くの場合、再発してしまいます。何度も再発を繰り返していると、社会的信用や家族、仕事や財産などを失ってしまう可能性があります。しかし、薬をきちんと飲み続け、規則正しい生活リズムを維持することで、普通の生活を送ることができますので、過度に心配することはありません。
仕事や社会生活との両立
双極性障害は生活リズムの乱れから再発を起こしやすい病気ですから、定時に出社・退社することができて負担の少ない仕事が理想的です。現実的には難しいかもしれませんが、昼夜2交代制などの不規則な勤務や夜間勤務の職業は、できれば避けたいところです。
また、復職にあたっては、仕事上のストレスや職場での人間関係のストレスが症状悪化の原因となっていることもありますので、異動や配置転換の可能性について上司とよく話し合ってみることが大切です。いきなりフルタイムで職場に戻るよりも、最初は1日数時間、週に数日程度のリハビリ勤務として、段階的に勤務時間や仕事の内容を増やしていくとよいでしょう。
受診を検討すべきタイミング
以下のような状態に心当たりがある場合は、一度専門医への相談をお勧めします。
- 気分の波が大きく、日常生活や仕事に支障が出ている
- 周囲から「最近様子がおかしい」と指摘される
- 睡眠時間が極端に短くても平気な時期がある
- 衝動的な買い物や行動で後悔することが多い
- うつ状態と調子の良い時期が交互に訪れる
- 抗うつ薬を服用してもあまり効果を感じない
- 家族に双極性障害の方がいる
これらは双極性障害の可能性を示唆する兆候ですが、必ずしも双極性障害であるとは限りません。正確な診断には専門医による詳細な問診と経過観察が必要です。
受診の際に準備していただきたいこと
初めて受診される際には、以下の情報を整理しておくとスムーズです。
- いつ頃から症状が気になり始めたか
- どのような症状があるか(気分の変化、睡眠、食欲など)
- 症状の変化のパターン(周期性があるか)
- 現在服用している薬やサプリメント
- これまでの治療歴
- 家族の病歴
- 生活環境やストレス要因
これらの情報は診断の重要な手がかりとなります。メモを持参していただいても構いません。
治療を続けるために大切なこと
双極性障害は慢性疾患ですが、適切な治療と自己管理により、多くの人が充実した生活を送ることが可能です。治療を継続するためには以下の点が重要です。
- 定期的な通院と服薬の継続
- 生活リズムを一定に保つ
- 睡眠時間を十分確保する
- ストレス管理を心がける
- 自分ひとりで問題を抱え込まない
- 主治医との信頼関係を築く
安定期になっても、再発予防のために薬を服用し続けます。どのくらいの間服用すべきかという点は、その人によって違いますから、主治医とよく相談することが大切です。
「双極性障害かもしれない」という不安を抱えながらこの記事をお読みいただき、ありがとうございます。不安な気持ちを抱えたまま一人で悩み続けるよりも、専門医に相談することで適切な診断と治療の道が開けます。
双極性障害は決して珍しい病気ではなく、適切な治療により日常生活を取り戻すことができる疾患です。症状に悩んでいる方は、どうぞお一人で抱え込まず、専門機関へのご相談をおすすめします。
※公開/更新日: 2026年6月9日 11:20

